Yulia’s Voyage to Japanese Art ユリアの日本画浪漫紀行

Vol.05
水藝
鏑木 清方 Kaburaki Kiyokata
鏑木 清方 水藝

絹本 着色 額装 平成30年鏑木清方記念美術館「泉鏡花生誕145年記念清方描く、鏡花の世界」出品 八木書店「市井展の全貌(戦前編)」所載
104×42㎝/122×60㎝

Vol.05 鏑木清方『水藝』

今回は遂に、鏑木清方の作品がテーマです。

しかも泉鏡花作品が題材になった作品です。

私は鏑木清方も泉鏡花も大好きなので、今回この作品に関してお話できる事がとっても嬉しいです。

 

こちらの「水藝」という作品では『義血狭血』という明治27年に執筆された泉鏡花の作品の主人公である「滝の白糸」という女性が描かれています。

この『義血狭血』という作品、主人公は旅芸人の白糸と馬車の運転手で法律家を志す青年の村越欣弥の二人です。

序盤は旅芸人一座の様子や、法律の勉強をする青年といった、前時代的要素と近代的要素の入り混じった、いかにも明治らしい様子が窺えて楽しく読んでいたのですが、後半は衝撃的な場面の連発で、あっという間に白糸が転落して行き、読み終わった後には暫く呆然としてしまいました。

明治時代が舞台になったこの作品。時代の転換期にはそれに順応する人と、取り残されていく人が居たはずで、ドラマティックな人生を送った人が多い時代でもありますよね。

 

清方の作品は水芸をしている時の白糸の画と言ってしまえばそれまでなのですが、物語を知っているといろんな事を想像してしまいます。

主人公の白糸は、北陸一の美人と謳われ、その芸も一座が旅に行く先々で話題になる程の腕です。性格は気丈でカッコイイ女性として描かれているので、舞台に立っている時の彼女もきっとそんな姿だったと思うのですが、清方の白糸にはどこか儚さを感じます。

それはアザミの襦袢が透けた、桃色の夏の振袖から覗く雪の様に白い肌のせいでしょうか?それとも衣装の色合い?表情?

白糸の様子とは対照的な、勢いよく飛ぶ水が白糸の頭上に弧を描き、それが後に白糸に待ち受けている悲運を占う様にも見えてしまいます。また、白糸は身寄りもなく一人で気丈に生きてきた女性です。そんな彼女は沢山の稼ぎがあっても一人ではそれを持て余してしまい、どこか空虚な気持ちで舞台に立っていたのかもしれません。

 

鏡花作品を愛読し、彼の作品の挿絵を描くことを目標に10代を過ごした(23歳の時に実現します)清方の描く白糸は、物語と時代背景への深い理解の上で描かれた作品なのでは無いでしょうか?

 


【筆者のご紹介】 マドモアゼル・ユリア
DJ兼シンガーとして10代から活動を始め、着物のスタイリング、モデル、コラム執筆やアワードの審査員など幅広く活躍中。多くの有名ブランドのグローバルキャンペーンにアイコンとして起用されている。2020年に京都芸術大学を卒業。イギリスのヴィクトリア・アルバート美術館で開催された着物の展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンヴィジュアルのスタイリングを担当。

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