Vol.12 最終回 大河内夜江『美人図』
これまで一年間、こちらの連載では美人画を中心に多くの作品を鑑賞させていただきました。日本画に関してほぼ知識のない自分ができるのだろうか?とかなり不安なまま始まった本連載ですが、今まで知らなかった作家との出会いや、これまで疑問に思わなかったけどよく見てみると不思議な作品、回を重ねるごとに自分の鑑賞の仕方も少しづつ変化していきました。
最終回となる作品は二枚折の屏風、大河内夜江の「美人図」です。今まで鑑賞した中で一番大きな作品になります。185×200㎝という大きさで、描かれた女性はほとんど原寸大なのではないでしょうか?
大河内夜江は明治26年に山梨県で生まれた日本画家です。もともとは洋画を学んでいましたが、30歳から日本画に転向。明治から昭和という近代日本の画壇が大きく変化した時代を生きた作家です。
作風は南画と大和絵、さらに洋画を取り入れた独自の鮮やかな色彩が特徴で、中国書画にも造詣が深く大和絵の技法を基礎に山水・花鳥画が得意な作家でした。確かに調べてみると風景画がほとんどで、人物が中心の作品があまり出回っていないようでした。
こちらの作品は桜の舞い始めた庭が一望できる縁側で、その景色を楽しむ女性が中心に描かれています。お庭の景色は桜を中心に、松、つつじ、椿などが描かれていて、つつじの下にはキビタキという4月上旬から下旬にかけて日本に渡ってくる黄色い鳥が描かれているので、この作品は4月頃の様子だという事が分かります。制作された年は不明ですが、庭先の色使いの鮮やかさに、明治から昭和にかけて洋画の影響を受け発展をした日本絵画の時代性を感じました。
この女性は髪の毛を下の方で丈長という紙で束ねています。お垂髪という髪型の様に見えます。着物は座っているので長さや着付けの仕方は不明瞭ですが、着物の下の襦袢には桜の柄、着物自体も桜を中心としたお庭の景色が描かれています。帯には橋と、前に垂れ下がった先には橋と鳥が描かれています。畳まで吹き込むくらいに散っている桜の花びらに手を伸ばす女性。襦袢まで桜柄で揃えるなんて、きっと桜に思い入れがあって、この季節を待ち望んでいたんだろうなぁ。と想像が膨らみます。
桜が咲くちょっと前の今の時期、この屏風を開いて桜を待ち望むなんてとっても風流な楽しみ方ではないでしょうか?
【筆者のご紹介】 マドモアゼル・ユリア
DJ兼シンガーとして10代から活動を始め、着物のスタイリング、モデル、コラム執筆やアワードの審査員など幅広く活躍中。多くの有名ブランドのグローバルキャンペーンにアイコンとして起用されている。2020年に京都芸術大学を卒業。イギリスのヴィクトリア・アルバート美術館で開催された着物の展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンヴィジュアルのスタイリングを担当。
【御礼】
着物のスタイリングに精通するマドモアゼル・ユリアさんが独自の視点から日本画を鑑賞するアートコラム「ユリアの日本画浪漫紀行」は連載12回目を迎える今回で最終回となりました。誠にありがとうございました。