Yulia’s Voyage to Japanese Art ユリアの日本画浪漫紀行

Vol.10
乙御前
神坂 雪佳 Kamisaka Sekka
神坂 雪佳 乙御前

絹本 着色 共箱 99×27㎝/177×38㎝

Vol.10 神坂雪佳『乙御前』

神坂雪佳と聞いて、まず頭に浮かぶのは『百々世草』の『狗児』。
最初に見た時は、なんだか白くて丸い物体という印象で、それが何の生き物なのかすら分からないけど、柔らかな曲線で描かれたその生き物は可愛くて、なんだか癒される”ゆるキャラ”といった印象を持ちました。

今回「乙御前」に関して書くにあたり、改めて神坂雪佳の手掛けた作品を見てちょっとびっくりしたのが、雪佳の曲線へのこだわりでした。
動物や人間をはじめとした動植物だけでなく、衣服や建物までもが徹底して曲線で描かれていました。
中でも市川団十郎を描いた作品「暫」(海老蔵さんがオリンピックの開幕式でも演じた演目)の衣装は三桝紋という四角い家紋が大きく入り、力強さを強調した直線的な衣装がとても印象的なのですが、家紋も衣装も全てが丸くなっていて、團十郎までもがゆるキャラになっていたのは良い意味で衝撃的でした。

さてこの「乙御前」ですが、乙御前(おとごぜ)とはお多福や、狂言において使用される醜女役の面の事を指す様です。狂言の面なので、能面よりもちょっとコミカルで親しみやすさがある気がします。

また、お多福や能面のシルエットはまさに雪佳の得意とする曲線がぴったりなモチーフ。座るというポージングもその丸さを強調させるもので、更にその上にフワッと纏った被衣が曲線を作り出して、まるで置物の様な印象です。
チラッと見える丸い足元、柔らかい表情、七宝模様など着物の模様までもが丸が中心で描かれ、可愛らしい作品です。

神坂雪佳は幕末に生まれ、昭和初期まで活躍した画家ですが、「光悦会」という会の発起人になるほど琳派の創始者である本阿弥光悦や琳派に傾倒した画家です。

そういえば重要文化財になっている本阿弥光悦の手掛けた赤楽茶碗に同じく「乙御前」という作品がありますが、こちらも曲線が印象的な丸くて、親しみやすく可愛らしい印象の楽茶碗でしたね。

 


 

【筆者のご紹介】 マドモアゼル・ユリア
DJ兼シンガーとして10代から活動を始め、着物のスタイリング、モデル、コラム執筆やアワードの審査員など幅広く活躍中。多くの有名ブランドのグローバルキャンペーンにアイコンとして起用されている。2020年に京都芸術大学を卒業。イギリスのヴィクトリア・アルバート美術館で開催された着物の展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンヴィジュアルのスタイリングを担当。

https://yulia.tokyo/